無慈悲な部長に甘く求愛されてます
なんでもいいのでケーキを売ってくれませんか。
今、どうしてもここのケーキが食べたいんです!
突っ立っている私に気づいて立ち止まるサンタに、ダメもとで声をかけようとしたときだった。
「けんちゃーん!」
「うわっ」
小さな子どもの声と、男性の低い声が聞こえた、と思った次の瞬間、顔面に衝撃を受けた。
視界が真っ黒に、いや、真っ白になる。
何か柔らかくてもったりした感触のものが顔にぶつかり、べちゃりと地面に落ちた。
鼻の奥まで甘い香りでいっぱいになる。
反射的につぶった目を開くと、視界がついさっきよりもずっと狭くなっていた。
真正面で、サンタが両手を前に差し出した不自然な格好で固まっている。
白いウィッグと口ひげに覆われた顔のなかで唯一むき出しの目が、戦慄したように私を見下ろしている。
立ち尽くす私の耳に、商店街から流れてくる陽気なジングルベルがリフレインしていた。