無慈悲な部長に甘く求愛されてます
「いつもならとっくに寝てる時間なのに、今日はクリスマスの空気に興奮してなかなか寝てくれなかったようで」
大河と呼ばれた四歳の男の子が足に突進してきた拍子に、体勢を崩したサンタクロースの彼が持っていたホールケーキを放り投げてしまい、運悪く蓋が開いて私の顔面にクリーンヒットした、ということらしい。
サンタの男性はもう一度頭を下げた。
「本当にすまなかった」
「いえ、もういいですから。洗面所をお借りしたうえに奥さんのコートまで借りちゃって」
ソファに畳んで置かれたキャメルのウールコートを見やると、サンタは「ああ、いや」と曖昧な返事をする。
「良美さんは兄の嫁さんなんだ。俺はクリスマスで店の手伝いをしていただけで……コートはクリーニングに出して返すから」
「じゃあ、お兄さんがフルーヴのパティシエさんなんですか?私、ここのケーキが大好きなんです」
少しあっけにとられたように私を見て、サンタは「そうですか」と答えた。