無慈悲な部長に甘く求愛されてます
 そのまましばらく黙り込んでから、彼はため息をひとつついた。

 それから観念したように赤い帽子と一体化した白髪ウィッグをはずし、口ひげのゴムを取る。

 ほんのすこし乱れた黒髪と、涼しげな目元と、まっすぐの鼻筋。

 サンタの下から現れた顔に、私は絶句した。

 ためらうように私を見上げ、その人は言う。

「経営管理部の、小松さん、だよな」

「さ、さ、さ、冴島部長!?」

 悲鳴じみた声が出てしまい、あわてて両手で口を覆った。

 正面に座り込むその人は私から目を逸らし、居心地悪そうに額を掻く。

 サンタの彼の声は、オフィスでいつも背中越しに聞こえてくる声とたしかに似ていた。

 けれどまさか部長本人だなんて想像すらしなかった。

 開いた口を閉じられずにいる私に、彼はもう一度「すまない」と謝る。

 その声と、整った顔がぴたりと一致して、私はもう一度衝撃を受けた。

 ああ、やっぱり冴島部長なんだ。
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