無慈悲な部長に甘く求愛されてます

 目の前で起きていることがとにかく信じられなかった。

 あの冴島部長が頭を下げたり、何度も謝ったり。

 会社の人たちが見たら大騒ぎしそうなことばかり起きている。

 そもそも、私はこんなに近くで部長と向かい合ったことすらなかったのだと思い至る。

 冴島部長はたしか31歳。切れ長な印象が強かった目は、実は奥二重で黒目が大きい。

 そのせいか、それとも見慣れたスーツ姿ではないせいか、とにかく部長はいつもよりも雰囲気が柔らかかった。

 唇は薄めだけれど、目鼻の配置バランスは完璧で、さすが真凛に『好み』と言わせるだけのことはある。

 ひとりで納得しているうちに、彼女が言っていた言葉を思い出した。

『冴島部長って本当に恐いよね。目つきのせいかな』

 私の前で困ったようにあぐらをかいている彼は、ごく普通の男の人だ。頭に鬼の角も見当たらなければ、目つきだって悪くない。

「あの……本当に冴島部長ですか?」
< 25 / 180 >

この作品をシェア

pagetop