無慈悲な部長に甘く求愛されてます
「ああもう、やっと寝たよー」
緩くウェーブのかかった茶髪をかきあげ、彼女は絨毯であぐらをかいたままの部長を見下ろす。
「ごめんね、けんちゃん。せっかく今日手伝ってくれたのに、ケーキだめになっちゃって」
「いや、いいよ」
「今度またリクに作ってもらうからさ。あなたも、ごめんね本当に。ええと……」
私を見て眉を下げているのは、大河くんのお母さんでパティスリー・フルーヴ店主の奥さん、冴島良美さんだ。
彼女がお店で売り子をしているところを何度も見たことがあった。
「私、小松和花です」
名乗ると、良美さんはにこっと笑った。
「和花ちゃんていうのね。よく買いに来てくれてるでしょ。いつもありがとう」
良美さんの笑顔につられるように、胸のなかに花が咲いた気がした。
好きなお店に一方的に買いに来ていただけなのに、私のことを覚えていてくれたなんて。
ちょっと、いや、かなり嬉しい。