無慈悲な部長に甘く求愛されてます
「ああ、そうですね。でも私、ここから五分くらいなので、送らなくて大丈夫です」
「いや、そういうわけにもいかない。歩いて送る」
「でも」と断ろうとすると、ぎろりと睨まれた。
鬼の片鱗があらわれて、反射的に「おねがいします」と答えてしまう。
「ええー帰っちゃうの?つまんなーい」
私の手を取って「これからがいいところなのにー」とつぶやいている良美さんに、部長は冷たく言い放った。
「義姉(ねえ)さんは兄貴の手伝いだろ」
「はいはい、わかってますよー」
三人で自宅の裏にある店に向かい、後片付けをしている店主の陸人(りくと)さんに挨拶をして、私は部長と一緒に自動ドアから外に出た。
しんと冷えた真夜中の空気が頬を刺す。
キャメルのコートの襟をかきあわせながら、私はとなりを歩く部長を見上げた。
帽子ウィッグと口ヒゲは取り外しているものの、衣装は赤色の目立つ服のままだ。