無慈悲な部長に甘く求愛されてます

 会話のないまま、私たちは外灯が照らす通りを進んでいった。

 すぐとなりを、鬼上司と言われる冴島部長が歩いている。しかもサンタクロースの格好をして。

 やっぱり、いつもとは違う、特別な夜だと思った。

 この夜のことは、多分、一生記憶に残るだろうな。

「あ、そこです」

 三階建ての木造アパート、エバーハイツが見えてきて、私は足を止めた。

 送ってくれたサンタクロースにぺこりと頭を下げる。

「ありがとうございました」

「いや、今日は悪かった。それじゃあ」

「はい、おやすみなさい」

 部長は表情を変えないまま踵を返した。

 アパートの前に立ったまま、私は来た道を戻っていく背中をじっと見送る。

 透き通った空気に、月が冴え渡っている。
< 31 / 180 >

この作品をシェア

pagetop