無慈悲な部長に甘く求愛されてます
幻想の世界に紛れ込んでしまったような、不思議な夜だった。
だけど、部長がまとった赤い衣装も、大好きなケーキ屋のシュークリームも、現実に、そこにある。
「あの!」
気がついたら声を上げていた。
部長が足を止めて振り返る。
外灯に照らされた顔が、何事かと私を見ている。
「メリークリスマス!」
そう叫ぶと、一瞬あっけにとられたような顔をして、部長はかすかに笑った。
返事をするかわりに右手を上げて、冴島部長は夜を泳ぐ魚のように闇の奥へ消えていった。