無慈悲な部長に甘く求愛されてます

 静かな口調ながら厳しい叱責に、宮田くんがさらにふてくされたように「すいません」と返す。

 後ろから伝わってくる張り詰めた空気に、妙にハラハラしてしまった。

「池崎、お前もだ。このクロスセルが本当に双方の利益につながると思ってるのか?」

 営業部の面々がばさりと切られていく気配を感じながら、私はクリスマスの夜のことを思い出していた。

 あの日の出来事はいったいなんだったのだろう。

 やっぱり夢だったのかも。

 その証拠に、あの夜以来、私が視線を送っても冴島部長と目が合うことはない。

「江田さん、リスク管理表の集計が終わりましたけど、出力しますか?」

 頭を切り替えて右隣に声をかけると、江田管理部長は「ああ」と柔和な笑みを見せた。

 四十代の彼は髪に白いものが混じり始めている。松田先輩とはまた違ったタイプの『やさしいお父さん』の顔が想像できる上司だ。

「頼みます。明後日の会議までにあればいいから。ああそれと」

 江田部長はちらりと営業部のほうに目をやった。
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