無慈悲な部長に甘く求愛されてます

 箸を置き、姿勢を正して言葉を待っていると、冴島部長はふいに周囲を見回し、視線を真凛に留めてから私に戻した。

「いや……なんでもない」

「え……?」

「それじゃあ、あとで頼む」

 そう言うと、部長はさっさとリフレッシュスペースをあとにした。

 フロアに消える背中を見つめて、真凛が噛み締めるように言う。

「なにあれ、かっこよすぎでしょ」

「え、なんの話」

「和花、気付かなかったの?ぼんやりしてたわね」

 きれいに整えられた指先で食べ終わったサンドウィッチのフィルムをくしゃくしゃに丸め、彼女は出入り口のほうに視線をやった。

「冴島部長、助けてくれたのよ。バカ池崎から。あ、呼び捨てにしちゃった」

 枕詞の『バカ』には言及しない真凛に苦笑しながら、私は冴島部長が消えていった出入り口を見やる。
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