無慈悲な部長に甘く求愛されてます

「冴島部長!」

 部長は開きっぱなしのドア枠にもたれるようにして私を見ていた。

 てっきり席に戻ったのかと思っていたのに、いつからそこにいたんだろう。

 頬がみるみる熱くなっていく。

 もしかして、ひとりごととか、ため息をついていたのとか、全部見られてた?

「あの、今のミーティングの議事録、上げました」

 恥ずかしさを紛らわすように言うと、部長は「ああ」と平坦に答えた。

 そのままドア枠に身をあずけてしばらく動かない。

 沈黙が妙にこわかった。

「……なにか、お忘れ物ですか?」

 おそるおそる尋ねると、部長はいつもの不機嫌そうな顔で言った。

「今度の土曜、時間はあるか?」

「え、土曜?」

 思いがけない質問で、一瞬返答に詰まった。

 休みの日は基本的に買い物に行ったり家でDVDを観たり、ひとりでぼんやり過ごすことが多い。今度の土曜日も同じだ。

「特に予定は入ってませんが」

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