無慈悲な部長に甘く求愛されてます
本当は真凛みたいにピアスを開けてみたいけれど、怖くてできないままだ。
通りを歩いていると、いつもの匂いが漂ってくる。
たっぷりのバターと砂糖を一緒に焼いたような甘い匂いは、私を毎日幸せな気持ちにさせてくれる。
花の蜜に誘われる蝶みたいにふらふら近づいていくと、お店の脇に見慣れない国産高級車が停まっていることに気づいた。
流線型のボディは夕暮れ後の深い青空みたいなきれいなブルーで、持ち主のセンスがうかがえる。
こんな高級車に乗る人もフルーヴのケーキを買いに来るのか、なんて思っていたら、お店の自動ドアが開いて男性がひとり出てきた。
白ニットに黒のパンツというシンプルな格好をしたその人が冴島部長だと気づくのに、数秒を要した。
「わ、冴島部長!」
「ああ、おはよう……て時間でもないか。時間ぴったりだな」
腕時計に目を落とす彼から、目を離せなかった。
どこのモデルかと思った……。