無慈悲な部長に甘く求愛されてます

「あの、図々しく助手席に乗ったりしてすみません。彼女さんに、怒られませんか?」

 ウィンカーを出して車を発進させながら、冴島部長はきょとんとした。それからくすくす笑いだす。

「君は本当に変わってるな」

 突然咲いた冴島部長の笑みに、あっけに取られた。

 そこには、オフィスで感じる威圧的な雰囲気が微塵もない。

「会社のヤツらは鬼上司の俺に彼女なんているわけないと噂してるのに、君は俺に彼女がいるという前提で話してる」

「え、いや、それは」

 どきりとした。冴島部長は自分にまつわる噂をすべて知っているのだ。

「あいにく、仕事が忙しすぎて彼女はしばらくいないんだ。だから助手席でふんぞり返ってくれて構わないよ」

 笑顔で言われて、私はますます首を縮めた。

「ふ、ふんぞり返りません……」

 小さく答える私を横目で見て、彼はまた笑う。

 なんだろう、さっきからひどく落ち着かない。

 部長の目がやさしくて、息ができなくなる。

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