無慈悲な部長に甘く求愛されてます
不機嫌そうな顔で営業マンたちをばさばさ切っていく営業統括部長と、今わたしのとなりでハンドルを握っている冴島賢人が同一人物だなんて、とても信じられない。
休日で通行量の少ないオフィス街の道をすりぬけて、歩行者で賑わう繁華街にたどり着くと、部長はビルの地下駐車場に車を滑り込ませた。
「着いたぞ。またすぐ戻ってくるから、コートは置いたままでいい」
そう言うと、さっさと車を降り、私がもたもたしているあいだに助手席のドアを開けてくれた。
スマートな動作に、まるで自分が部長の彼女にでもなったような錯覚に陥る。
「すみません、ありがとうございます」
勘違いしないようにきっちりと線を引かなければ。
そう考えながら車から降りたとたん、部長に顔を覗きこまれて私は固まった。
すっと大きな手が伸びて、私の耳に触れる。
くすぐったい感触と、至近距離の仕草にびくりと体を震わせると、部長は「ああ失礼」とあわてたように手を引っ込めた。