無慈悲な部長に甘く求愛されてます

「あの、今日はいろいろとありがとうございました」

 エレベーターで地下三階の駐車場に向かいながら、私はぺこりと頭を下げた。

 結局、お金は一銭も払っていない。

 出そうとしても出させてくれなかった、というほうが正しいけれど。

「いや、今日のはお詫びだから。礼を言われることじゃない」

 車に戻ると、冴島さんはエンジンをスタートさせながら言った。

「最後に一ヶ所だけ、付き合ってくれるか?」

 横目で言われ、心臓が鳴った。

「……はい」

 なんだかもう、このまま連れ去られてもいいような気がした。

 夢のような一日を過ごして、私は部長に特別な感情を抱いてしまっている。

 会社の人は恋愛対象じゃない、なんて真凛に言っておいて、なんという矛盾。

 鬼上司のギャップなんて、ずるいですよ冴島部長。


「着いたよ」

 冴島さんの静かな声が聞こえて、私は顔を上げた。
< 71 / 180 >

この作品をシェア

pagetop