無慈悲な部長に甘く求愛されてます
フロントガラス越しに、見慣れた景色が広がっている。
「え……」
そこはおなじみの商店街の外れだった。向こうに見える中通りは、夕方の買い物客で賑わっている。
冴島さんはフルーヴの裏手にある冴島家の駐車場に車をいれると、きょとんとした顔で私を見た。
「ん、どうかしたか?」
「……いえ」
最後に一ヶ所だけ、なんて言うから、どこに連れて行かれるのかと思っていたら、普通に帰ってきただけだった。
なにかを期待していた自分が急に恥ずかしくなって、私は急いで車を降りた。
「本当に、いろいろとごちそうさまでした。それじゃあ」
逃げるようにその場を立ち去ろうとしたら、後ろから腕を掴まれた。
「待て待て、最後に一ヶ所って言っただろ」
冴島さんはリモコンで車にロックをかけると、私の手をつかみ直してお店のほうに回り込んだ。
恋人のように繋がれた手に意識が集中して、私は一瞬、寒さも時間も忘れた。