無慈悲な部長に甘く求愛されてます
冴島さんて、こんなふうに簡単に女の人に触れてしまう人なのだろうか。
そうではないと、思いたかった。
手のひらから伝わる熱に、鼓動が高まっていく。
私は広い背中から視線を逸らした。
部長の何気ない仕草に特別な意味を見出そうとするなんて、われながら自意識過剰だ。
鬼上司の仮面をかぶっているけれど、冴島さんは本当はとても素敵な人で、どんな相手だって選べる立場の人なのだから。
「いらっしゃいませ」
お店の自動ドアをくぐると、ショーケースの向こうでおそろいのエプロンをした良美さんと、茶髪をショートボブにしたアルバイトの女の子が同時に振り返った。
「あ、なんだ、けんちゃんか。おかえり」
良美さんが明るく言って、私に目を移す。
「和花ちゃん、こんにちは」
ニコニコからニヤニヤに笑みの種類を変えて、彼女は冴島さんを見上げる。
「で、どうだったのよ、デートは」
「デート!!?」
私の驚きを誰かが代弁してくれたと思ったら、ショートボブの子がショックを受けたように私を見つめ、冴島さんに目を移した。