無慈悲な部長に甘く求愛されてます

 冴島さんて、こんなふうに簡単に女の人に触れてしまう人なのだろうか。

 そうではないと、思いたかった。

 手のひらから伝わる熱に、鼓動が高まっていく。

 私は広い背中から視線を逸らした。
 
 部長の何気ない仕草に特別な意味を見出そうとするなんて、われながら自意識過剰だ。

 鬼上司の仮面をかぶっているけれど、冴島さんは本当はとても素敵な人で、どんな相手だって選べる立場の人なのだから。

「いらっしゃいませ」

 お店の自動ドアをくぐると、ショーケースの向こうでおそろいのエプロンをした良美さんと、茶髪をショートボブにしたアルバイトの女の子が同時に振り返った。

「あ、なんだ、けんちゃんか。おかえり」

 良美さんが明るく言って、私に目を移す。

「和花ちゃん、こんにちは」

 ニコニコからニヤニヤに笑みの種類を変えて、彼女は冴島さんを見上げる。

「で、どうだったのよ、デートは」

「デート!!?」

 私の驚きを誰かが代弁してくれたと思ったら、ショートボブの子がショックを受けたように私を見つめ、冴島さんに目を移した。

< 73 / 180 >

この作品をシェア

pagetop