無慈悲な部長に甘く求愛されてます

 彼女の熱っぽい視線に気付いているのかいないのか、冴島部長はカウンター越しに良美さんに声をかける。

「例の、できてる?」

「ああ、もちろん。ちょっとまってて」

 そう言って奥に引っ込んだ良美さんは、両手になにかを抱えてすぐに戻ってきた。

 ショーケースの上にケーキをのせて、「こちらでよろしいですか?」と冗談交じりに冴島さんに尋ねる。

「うん。完璧だ」

 ケーキの台を慎重に持ち上げて、冴島さんは私に向き直った。

「それじゃ、これは君に」

「え……」

 差し出されたホールケーキに、私は言葉を失った。

 それは、表面にチョコレートがコーティングされたザッハトルテ風のとても美しいケーキだった。

 カウンターの向こうで良美さんが微笑む。

「うちからのお詫び。もらってくれる?」

 あまりの衝撃に動けなかった。

 固まっている私を見て、良美さんが不安げな声を出す。

「もしかしてチョコレート苦手?」

 そう言うと、ショーケース越しに冴島さんをにらみつける。
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