無慈悲な部長に甘く求愛されてます
「ちょっとけんちゃん、どういうことよ。チョコケーキがよかったんじゃないの?話がちがうじゃない」
良美さんの小声にはっとして、私はあわてて口を開く。
「いえ、チョコレートケーキ大好きです!ちょうど食べたかったんです」
「本当?」
不安そうな良美さんに、私は答える。
「はい。本当に、私ここ最近ずっとフルーヴのチョコレートケーキのことばっかり考えてて……」
そこまで言って、はっとした。
視界の端で、冴島部長が小さく笑うのが見える。
……もしかして。
いつかミーティングルームでつぶやいていた私の言葉を、部長は聞いて、覚えていてくれたのかな。
そんなふうに考えてしまう私は、やっぱり自意識過剰だろうか。
太陽が沈んだばかりの空が、深い青に覆われていく。
冴島さんの車の色だ、と思いながら私は彼とふたりでアパートへの道を歩いた。
ニットの上にコートを羽織った冴島さんが、ぽつりと言う。