無慈悲な部長に甘く求愛されてます
「ケーキが報酬だったんだ」
脈絡のない言葉に、「え?」と顔を向けると、冴島部長はわずかに表情を崩して続けた。
「クリスマス。フルーヴを手伝った報酬は、ケーキで支払われる約束だった」
穏やかな目で私を見下ろして、意地悪っぽく笑う。
「君にぶつけてしまったあれだよ。ちょうど車に置きに行こうとしていたところで」
「そう、だったんですか」
冴島さんの笑顔に、まるで条件反射みたいに心臓が鳴った。
頬にあたる空気は冷たいのに、彼と並んで歩いているだけで、私の顔は熱くなっていく。
「いい年して恥ずかしいんだが、俺は兄貴のケーキがとても好きでね。結構楽しみにしてたわけだ。それがなくなって、しかも女の子に迷惑までかけて、二重のショックだったよ」
彼の声を聞きながら、私は口元を覆うようにマフラーを引っ張り上げた。
外灯の光くらいでは気づかれないと思うけれど、赤くなっている顔を見られたくない。
「あのとき、ひどく落ち込んでいたはずなのに……申し訳ないと思いながらも、俺はちょっと救われた。……君の言葉で」