無慈悲な部長に甘く求愛されてます

 思わず振り返ると、冴島部長は優しく微笑んだ。

 低い声が、包み込むように私に届く。

「顔面にケーキをぶつけられたにもかかわらず、君は顔を輝かせて言った」


《私、ここのケーキが大好きなんです》


「俺を責めるのが当然なのに、そうはしないで、俺が好きなあの店を褒めてくれた」

 いつのまにかアパートの前まで来ていて、私たちは立ち止まっていた。

 優しく注がれる冴島さんの視線に、鼓動がはやくなっていく。

「なんていうか……君には、驚かされてばかりいる」

 それはこっちのセリフですと、私はまたしても心の中でつぶやいた。

 冴島部長の切れ長の目から、視線をそらすことができない。

 手袋をはめていない手が、私の頭をぽんとなでた。

 そのままするりと髪をすべりおち、私の耳をくすぐり、大きな手が頬に触れる。

「冴島、さん?」

 私の頭よりずっと高いところにあった顔が、近づいてきているような気がした。

 顔の半分を覆っていたマフラーをゆっくりずり下げられ、冷気が唇をなでる。

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