無慈悲な部長に甘く求愛されてます

 そんな私が、会社の人にときめくなんて。

 しかもそれが、鬼上司と呼ばれる冴島部長だなんて。

 エレベーターの扉が開き、22階のフロアに降り立つ。

 絨毯敷きの通路を進み、右に折れようとしたところで向こうから来た人にぶつかった。

「悪い、大丈夫か?」

 スーツの胸から顔を上げると、整った顔がすぐそこにある。

「さ、冴島部長!すみません。大丈夫です」

 私は顔を押さえながらあわてて一歩下がった。

 部長はスーツの上にコートを羽織り、ビジネスバッグを持っている。

 私は即座に彼の今日のスケジュールを思い出す。

「今日は朝イチで名桜酒造に行かれるんでしたっけ」

「ああ、午後のミーティングまでには戻るから。あとは頼む」

 普段会社で見る不機嫌そうな顔で言うと、部長はエレベーターホールに向かいボタンを押した。すぐにランプが点灯する。

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