無慈悲な部長に甘く求愛されてます
「俺、肩もみめちゃくちゃうまいから、言ってくれればいつでもマッサージするよ」
にかっと歯を見せて笑うと、彼はレンジから弁当を取り出してデスクに戻っていった。
先輩の背中を見送りながら、首をすくめている自分に気づく。
池崎さんが肩に触れた瞬間、私はぞっとしてしまった。
不思議だ。
冴島さんに触られたときは、大丈夫だったのに。
むしろ、胸がどきどきして、そのまま触れていてほしいとすら思ったのに。
大きな手が私のマフラーをずり下げたときのことを思い出して鼓動が早くなる。
冷えた薄暮れの出来事は、二週間経って色褪せるどころか鮮やかになるばかりだ。
ああもう、私ってば、また思い出してる。
自分を現実に引き戻すように両手で耳たぶをぎゅっと引っ張った。
それなのに、今度はエレベータに乗り込んだときの冴島さんが思い出される。
まるで冴島部長の呪いがかかったみたいに、私はしばらく胸の動悸を抑えられなかった。