無慈悲な部長に甘く求愛されてます

「俺、肩もみめちゃくちゃうまいから、言ってくれればいつでもマッサージするよ」

 にかっと歯を見せて笑うと、彼はレンジから弁当を取り出してデスクに戻っていった。

 先輩の背中を見送りながら、首をすくめている自分に気づく。

 池崎さんが肩に触れた瞬間、私はぞっとしてしまった。

 不思議だ。

 冴島さんに触られたときは、大丈夫だったのに。

 むしろ、胸がどきどきして、そのまま触れていてほしいとすら思ったのに。

 大きな手が私のマフラーをずり下げたときのことを思い出して鼓動が早くなる。

 冷えた薄暮れの出来事は、二週間経って色褪せるどころか鮮やかになるばかりだ。

 ああもう、私ってば、また思い出してる。

 自分を現実に引き戻すように両手で耳たぶをぎゅっと引っ張った。

 それなのに、今度はエレベータに乗り込んだときの冴島さんが思い出される。

 まるで冴島部長の呪いがかかったみたいに、私はしばらく胸の動悸を抑えられなかった。

< 88 / 180 >

この作品をシェア

pagetop