無慈悲な部長に甘く求愛されてます
♡
いつも引き締まった顔で仕事をこなしている同僚たちも、管理職がそろって出払っていると気が緩んでしまうらしい。
「あーくそ!めんどくせえ!」
ガチャンと乱暴に電話を切る音が聞こえて、パソコンに向けていた意識が強制的に後ろの島へと引っ張られた。
「こんなの書いてるヒマがどこにあるっていうんだよ」
「そうカリカリすんなよ宮田。忙しくて苛立つのはわかるけどさ」
「でも池崎先輩、このスケジュール自体が殺人的じゃないすか。部長は俺たちを殺す気ですよね」
「まあ、冴島部長みたいに人の気持ちを無視して進めればなんとかなるんじゃないか」
「無理ですって、俺には人間の心があるんですから。鬼部長と違って」
本人がいないのをいいことに、営業マンたちの陰口がはじまった。
これまで何度も耳にしてきたやりとりなのに、今日はなんだか居心地が悪い。
直接輪のなかに入っていなくても、聞いているだけでざらざらした砂を飲み込んだような気分になった。
「そもそも部長は俺らの気持ちなんてどうでもいいんですよ。理解するつもりもないだろうし」