無慈悲な部長に甘く求愛されてます
冷たくなんかないです――
言いかけた私を押しとどめるように、突然背中に手が触れた。
すぐ横に現れた気配に、どきりとする。
「無駄口叩いてるヒマがあるのか?」
池崎さんが私の後方を見てみるみる青ざめていく。
「さ、冴島部長」
「そんなに時間が余ってるなら、任せたい案件が山ほどあるんだが」
「い、いえ。手一杯です」
慌てたように正面に向き直る池崎先輩を見ながら、私の心臓は壊れそうなほど鳴っていた。
背中に触れていた力強い手の感触が、離れていく。
冴島部長は厳しい顔のままデスクに戻り、カバンを置いて脱いだコートをコートハンガーに掛けた。
私は何事もなかったように席に戻りながら、内心では平常心を保つのに必死だった。
背中に感じた手の感触が、消えない。
誰にも気づかれないように触れたぬくもりは、まるでふたりだけの意思疎通だった。
《大丈夫だから心配するな》
聞こえたわけでもないのに、冴島部長の気持ちが伝わってきた気がして、胸がつまった。