無慈悲な部長に甘く求愛されてます

 ほかの同僚に遅れまいと立ち上がった宮田くんを、部長が呼び止める。

「宮田、さっきのはいいアイデアだったな。おまえが考えたのか?」

 隅の席で資料を片付けながら、私はつい顔を上げた。

 宮田くんが今日のミーティングで俎上にのせたのは、ついさっき、私が彼に提案した内容そのものだった。

 じっと息をつめて見守っていると、宮田くんは私を見ることもせず自信たっぷりにうなずいた。

「はい、俺が思いつきました。販売先のリストを精査していたら、城木興産が目にとまったので」

「そうか。よくやった」

 宮田くんは無表情だったけれど、唇をぎゅっと噛み締めていた。

 喜びを顔に出さないように我慢しているのだ。部長からめずらしく褒められて、嬉しくないわけがない。

 ドアを出ていく同期の彼の背中を見送りながら、なんとなくやりきれない気持ちになる。

 美味しいところをもっていかれるという表現は、こういうときに使うのかもしれない。

< 96 / 180 >

この作品をシェア

pagetop