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隆平の腕を握り締めたまま、あたしは泣き続けた。
真夜中。周りには誰も居なくて、世界には2人きり。もう二度と戻らない大切な場所。

 あたしの肩を握り締めた隆平の手は解かれて、背中を押された。

「振り向くなよ?後姿を見るのは、俺だけでいいから」

あたしは歩き出した。足に鉛を繋いだまま過去を背負おうと思った。

“振り向くな”
それは嫌だった。

少し歩いて、足を止めた。最後に隆平を忘れないために……。
振り向いて隆平を見れば、それ程歩いていない距離からは隆平の涙がはっきり見えた。
駆け寄って、抱きしめたかった。

泣き顔で、笑って、手を振る隆平に駆け寄ることが出来なかった。
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