契約結婚なのに、凄腕ドクターに独占欲剥き出しで愛し抜かれました
程なくしてアンティパストが届いた。

「いただきます」

先生は丁寧に手を合わせてからフォークを手に取る。

大人になって、外食でこんなふうに手を合わせる人はどのくらいいるんだろう。

なんだかキュンとしてしまう。

先生は姿勢を正したまま器用に生ハムをフォークでからめとる。

その所作はとてもスマートで、育ちがよさそうなのが見て取れた。

モテるのも当然だろうな。

「…先生、年間100人振ってるって本当ですか?」

先生は炭酸水を吹き出しそうになってゴホゴホとむせ込んだ。

「それは初めて聞いた噂だな。100人はどう考えても言いすぎだろ。どこからそんな噂が出るんだ」

先生は口元をナプキンで拭きながら顔をしかめている。

「じゃあ、ゲイという噂は…」

「ああ、それなら聞いたことがある。俺がゲイだったら昨夜君にあんなことを言ったりしない。もっと言えばバイセクシャルでもない」

やっぱり噂は噂でしかないのかな。

有名人だから、噂にどんどん尾ひれがついて芸能人のスクープ並みに広まってしまったのかもしれない。


「…焦らせるつもりはないが、昨夜のことは考えてくれたか?」

急に緊張感が走る。

フォークをお皿の隅に置き、膝に手をついて姿勢を正した。

夢だろうと思いながら、昨夜眠れずにずっと考えていた。


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