ブラックサンタクロース


「……は?」


なかなかの名案だと思った。

なのにサンタさんは唖然としている。


「わたし、女です」

「見りゃわかるけど」

「美味しいかもですよ?」


さっき食べたゴミの心臓なんかよりも。

口直しになるかもしれないし。

ひょっとしたら予想外な絶品ということも……。


「死にてぇの?」

「サンタさんになら殺されてもいい」


あなたの身体に取り込まれるなら。

それでいい。


二度と会えなくなるより、ずっといい。


あなたがわたしを美味しいと思ってくれたら、とても幸せなことだ。


心臓を取り出されるのは、きっと、ものすごく痛いけど。


あっという間に呑み込んでしまうのでしょう?


だったら痛みも一瞬で。


そんなものより。


あなたがわたしを欲しがって、それでわたしの人生が終えられるだなんて、とってもロマンチックな未来でしょ。


最高のエンディングです。


そう思うと、顔が、カラダが、熱くなってきた。


「……言ったろ。俺はお前は要らない」


――ズキン


あなたに拒絶されるのは、

死ぬより、つらい。


「どうしてですか?」

「俺はな。汚れたやつしか喰わないんだ」


汚れるの定義って、なんですか。

物を盗ったり人に乱暴をはたらいたりすれば汚れるんですか。


「わたしが汚れたら食べてくれますか」

「本末転倒じゃねぇか。俺に喰われる為に、嫌われるようなことすんの?」

「っ、」


嫌われたく、ない……。


「ガキは帰って寝ろ」

「……だから、ママの心臓は食べなかったんですか」


あの夜。


「そっと、ママの瞼を閉じてくれたんですか」

「……そうだったかな」

「食べたくなかったんですか?」

「いいや。喰いたかった」

「でも、食べなかった」

「あんなに、綺麗だったんだ。きっと美味かったろうな」

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