いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
おかげで思考は一時停止。
言葉を失った私を心配したいち君が、大丈夫かと困った様子で微笑んでいる。
「沙優ちゃん平気?」
へ、平気じゃないからこうなってるんだと抗議したい気持ちが活力となり、私はようやく口を開いた。
「い、いやいや、そんないきなり言われてもね」
「いきなりじゃない。ちゃんと縁談の話は沙優ちゃんのご両親に伝えてあるし、君も今ここにいる」
「そうだけど! でも、結婚するとは決めてないし」
むしろ断ろうとしていたくらいだ。
いくら相手が初恋の相手であろうと、簡単には頷けない。
でも、引けないのはいち君も同じらしく、彼はなおも食い下がる。
「じゃあ、結婚したくなるように頑張るから、これから機会をくれないかな」
「機会って……?」
彼の言葉の先に何があるのか。
首を傾げれば、柔らかな風が吹いてワンピースの裾を揺らした。
それは陽の光を浴びて茶に透けたいち君の髪もゆるゆると靡かせる。
斜めに流れる前髪の下で、私を見つめるふたつの瞳を楽しそうに細めて彼は提案した。
「君と会う機会。要は俺を好きになってもらいたいから、互いを良く知る為にたくさんデートしようってことだよ」
ああ、そうだった。
いち君は昔から、その穏やかな顔に似合わず強引なところがあったと、その有無を言わさない笑顔を見ながら溜め息を零したのだった──。