いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
第3章

どんな彼にも魅せられて



夢を見た。

水色の空と、色鮮やかな花や優しい木々に囲まれた広い草原。

その景色の中央に、アンティーク調の白い椅子があった。

絵画のような風景をぼんやりと眺めていると、横から突風が吹いて私は目を瞑り身を縮める。

そして気がついた。

音が、何もないことに。

肌を撫でる風の感触はあるのに、音だけがしない。

何が起こっているのかと、恐る恐る顔を上げると、椅子に、綺麗な女性が腰掛けていた。

両手を膝の上に揃えて、長い睫毛を瞬かせて。

私を静かに見つめ微笑んでいる彼女の薄く形の良い唇が動く。


「ありがとう」


音のない世界に、彼女の声がはっきりと聴こえて。

優しげな声に、椅子に座る彼女がいち君のお母さんだと思い出した。

直後、左隣に気配を感じて顔を向ければ、小学生の頃のいち君が立っていて、そっと私の手を引いた。

その顔は悲しそうで、気づけば彼のお母さんも悲しげに眉を下げている。

どうしたのと、開いた唇からは声が出なくて私は空いている右手で喉に触れた。

次の瞬間、ふと二人の視線がある一方へと向いて、私もそちらを見やれば、そこには厳しい顔で立ついち君のお父さんが立っていた。

いち君が、何かに耐えるように私の手を強く握る。

大丈夫?

声はやはり出なくて、戸惑う私をまた、彼のお母さんが見つめる。


「どうか、はじめをよろしくね」


心配そうに言うから、安心させたくて力強く頷くと、彼のお母さんはふわり。

温かい笑みを浮かべてくれた──。


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