いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
運転席のウィンドウが降りて、乗るように促された私はなるべく二人を見ないように助手席に座った。
頭の中は今見た光景でいっぱいだ。
「暑かったら言って。買うものがあれば寄るけど、何かあるかな?」
秘書の女性、東條社長から見たらすごく若いよね。
いやでも、恋愛や結婚に年齢差は関係ない。
というか、二人のことをいち君は知ってるんだろうか。
「沙優?」
「あの……いち君」
「ん?」
運転するいち君は、チラリと私を見る。
聞いてもいいものか。
でも、もしかしたらすでに再婚してて、なんて展開もあるかもしれない。
それなら、私が結婚を決めた場合、あの人が私の義母になるのだ。
知っておかなければと思いつつも、もしも違う場合いち君も困惑するだろう。
だから私はなるべく今思いついたという様子で問いかけることにした。
「そういえば、いち君のお父さんて再婚はしたのかな?」
さり気なく、でも遠慮がちに尋ねると、いち君は瞳の色を僅かに暗くする。
「……してないよ」
しまった。
父親の話なんてしたくないオーラがひしひしと伝わってきて、私は手早く話を終える為に「そうなんだね」とだけ返す。
彼は、感情を隠すようなひどく静かな瞳で「どうして?」と私が聞いてきた理由を求めた。
さすがに本当のことはいえず、私は「ううん。なんとなく」と微笑んでみせたけど、いち君の中にしこりを残してしまったようで、送ってもらう間、私たちの会話が弾むことはなかった。