いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
今日の待ち合わせ場所であるカフェは、イタリアのバールをコンセプトにしているシックな雰囲気のお店だ。
程よく冷房の効いた店内には鼻をくすぐるコーヒーのいい香り。
バイトの子だろうか。
高校か大学生くらいの黒いエプロンを着た青年が「いらっしゃいませ」と人数の確認をしてきたので、私は待ち合わせですと伝え、白と茶を基調とした店内に視線を走らせる。
すると、一番奥のテーブル席に紺色のポロシャツに身を包むいち君の姿を見つけた。
彼は開いた文庫本に視線を落としている。
長い睫毛が時々瞬くのを見つめながら彼に歩み寄ると、気配に気づいたのかふと顔を上げて私を見た。
途端、花の蕾が綻ぶような微笑みを浮かべる。
「沙優」
「いち君、ごめんね。待たせちゃったかな」
「いや、読みたい本があったから早めに出たんだ」
本に栞を挟んで閉じるのを視界に捉えながら、私は彼の正面の席に座った。
いち君は、鞄に本をしまうと「でも、失敗したな」と静かな声で言う。
「何が?」
「君を待ちながらだと、早く会いたくて集中できなかったから」
「そ、そうだったのね」
内容が入ってこなかったと笑う彼に、私は赤面してしまう顔を誤魔化すよう、手でパタパタと扇ぎ、暑い振りをした。