いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~


尽くす彼の気持ちを無碍にしてるひどい女だと思われているのか、いち君を見る目は優しいのに、私を見る目は厳しいのだ。

完全に私が折れなければならない状況に、頭をフル回転させる。

お礼なんて本当にいらないのだ。

そもそも、普段からいち君には良くしてもらってるから必要ないくらいなのに。

でも、それを言っても多分彼は引かない。

それならやはり私が欲しいものをお礼にもらうしかないのだろう。

けれど、欲しいものなんて特にない。

しいていえば休みくらいだ。

来週の花火大会も、去年は休日出勤して事務所から音だけ聞いていたっけ。

……と、そこまで考えて思いつく。

来週のデート、まだどこに行くか決まっていなかったはずだ。

なら、花火大会を希望して、それを欲しいものに当てがえばいいのでは。

あとはいち君のように上手く甘えて私の希望を通せるかどうかだ。

とりあえず今はこれしか思い浮かばないので、決行することにした。

私は元気なく視線を手元にアイスティーに落とす彼に提案する。


「じゃあ……花火が見たい」


予想していない言葉だったのだろう。

いち君は「え?」と顔を上げて私を見た。


「来週の土曜、花火大会があるでしょ? それを、一緒に見てくれる?」


それじゃお礼にならない。

そう言われたら「いち君と見たいというワガママをかなえてもらうからお礼になる」と返すつもりだった。

でも、どうやらそれは必要なかったらしい。

私からデートに誘ったり提案したことがなかったからかなのか、いち君は水を得て生き生きと咲く花のような笑顔で頷く。


「もちろん!」


快諾されて、胸がキュンと締め付けられる。

忙しなく早鐘を打ち始めた心臓。


いち君だから、好きになる。


本当にそうだなと、この瞬間、私も笑みを零しながら思ったのだった。


< 127 / 252 >

この作品をシェア

pagetop