いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
とりあえず今日は前の予定にあった映画でも観ようと決めて、私たちは涼しいカフェから出た。
夏の日差しが出迎えて、眩しさに目を細めたいち君が青い空を見上げる。
彼の物腰と同じく柔らかな髪が緩やかに吹いた風に靡くと同時、頭上に一羽の鳥が羽を広げて優雅に飛ぶのが見えた。
いち君の視線も鳥を捉える。
自由に羽ばたく姿を、羨望の眼差しで。
父親のこと、会社のこと。
彼には色々と背負うものがある。
それは、間違いなく大きいものだ。
たまには解放されたいだろうと思えば、彼が鳥を好きな理由も少しわかる気がする。
「いち君、行こうか」
「ああ、そうだね」
彼の気持ちが少しでも軽くなるように、勇気を出して私から手を繋ぐ。
もちろん、いち君は僅かに目を見張ったけれど、すぐに嬉しそうに破顔した。
今日はいつもより私がリードしてるかも。
なんて思ったのもつかの間。
「ねえ、沙優。今日の沙優いつもと違うね。ネイルもしてた」
「う、うん。頑張って、みたの」
「それは、俺の為かな?」
またいつもの彼のペースに戻されてしまう。
「いつもの沙優も好きだけど、今日みたいな沙優もいいね」
好きだよ、と声にした彼。
服装のことだろうけど、ストーレートに表現された私は、しばらくいち君の目をまともに見ることはできなかった。