いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
でも、突然現れて私と結婚したいだなんて。
いち君の頭の中はいったいどうなっているのか。
そもそも、別れも突然だった。
それは、中学三年の夏休み前のこと。
受験が本格化する前に、彼はいきなり転校した。
いち君と仲が良かったはずの私は何も聞かされてなくて。
彼と同じクラスに在籍していた親友からの『転校した』という言葉に呆然とした。
ただ、気づこうと思えば気づけたのかもしれない。
いち君がいなくなる前日に、私は彼に誘われてタイムカプセルを埋めたのだ。
いきなりすぎてわけがわからなかったけど、あれは思い出作りだったのだろう。
けれどもう、その場所もマンションが建ってしまい、思い出はそこに残ってはいない。
行き場をなくした私の恋心と共に破棄されてしまった。
「ほんと……いきなりなんなのかな……」
溜め息のあとに零した声が私しかいない空間に溶けて消える。
ふと、枕元に置いてあったスマホが震えて手にすると、母からの着信を知らせていた。
「もしもし?」
『どうだったー? はじめ君とのお見合い』
楽しげな声で聞かれて、私は短く溜め息を吐く。
「おかげさまでビックリしました」
『でしょう? ママもビックリしたもの。相変わらずのイケメン君で』
そっちかい! と、心の中で突っ込んで、母のマイペースさに再度溜め息を落とす。