いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
『それで、どうするの? もちろん受け』
「てないよ」
『ええ!? 沙優、あなた気でも狂ったの?』
いやいやいや。
私は正気ですとも。
むしろ狂っていたらプロポーズを受けていただろう。
まともだから戸惑っているのだ。
「いくらいち君でも、突然現れてよろしくお願いしますとはならないよ」
『なんていうか、あなたは昔から慎重よねぇ』
無鉄砲なあなたを見て育ったからですよとはあえて口にせず、私は「そうよ」と答えた。
『でもまあ、会えて良かったでしょ?』
「……そうだね」
ずっと、会いたいと思っていた人だった。
彼がいなくなってからの私の様子を知っている母からすれば、やはり喜ぶべき再会なのだろう。
けれど、素直にそうできないのは、彼から何も聞かされず転校となったことが、今でも私の中でシコリとなって残っているからだ。
とにかく、これから何度か会って考えることになっていると伝えると、母は納得して通話を切った。
直後、玄関のチャイムが鳴って来客を告げた。
続け様に玄関扉を叩く音がして「真山(まやま)さん、お届けものです」と男性の声が宅配屋であることを知らせる。