いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~


──ドン。

ドン、ドンと。


晴れた濃紺の夜空に大輪の花が一瞬のうちに広がる。

手を伸ばせば届くのではないかという大きさのそれらを、飽きることなく見つめていたら、ふと、小指に彼の小指が触れて、遠慮がちに絡まった。

その瞬間から、私は動けなくなる。

心臓が騒ぎ始め、緊張でどうしたらいいかわからない。

でも、繋がれた小指は嫌ではないと伝えたくて、私もまたそっと小指に力を込める。

すると、いち君が沙優、と呼んだ。

導かれるように顔ごと視線を向ければ、美しい光が煌びやかに咲いて、彼を様々な色に染める。

パラパラパラと弾け散る音に重なって、いち君の唇が開いた。


「抱き締めても、いい?」


確認されて、俯く。

問いかける彼の表情が、あまりにも切なく、甘くて、思わず逃げてしまった。

逃げてしまった、けれど。

私の返事は1つだけ。

俯いたまま小さく頷くと、そっと小指から引寄せられるように、私の体がいち君の腕の中々に包まれた。

花火が上がって。

鼓動が強く打つ。

彼の手が、頬に添えられて。

視線が絡まれば、いち君の瞳が揺れる。


「ずっと、君にこうして触れたかった」


花火の合間に囁くと、その端正な顔が近づいてくる。

逃げないでと願うような切なさを瞳に宿され、いち君となら、と瞼を下ろした刹那。


リンゴン、と豪華なドアチャイムの音が鳴り響いて、私たちは夢から覚めたようにはっとして離れた。


「ご、ごめん」


彼は言い残し、エントラスへ向かう。

その謝罪がどの意味なのか。

それはわからなかったが、別にハッキリしたことが1つ。

声には出さず、下の上で転がした想い。

やっぱり私は、いち君のことが好きだ。


< 140 / 252 >

この作品をシェア

pagetop