いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
──ドン。
ドン、ドンと。
晴れた濃紺の夜空に大輪の花が一瞬のうちに広がる。
手を伸ばせば届くのではないかという大きさのそれらを、飽きることなく見つめていたら、ふと、小指に彼の小指が触れて、遠慮がちに絡まった。
その瞬間から、私は動けなくなる。
心臓が騒ぎ始め、緊張でどうしたらいいかわからない。
でも、繋がれた小指は嫌ではないと伝えたくて、私もまたそっと小指に力を込める。
すると、いち君が沙優、と呼んだ。
導かれるように顔ごと視線を向ければ、美しい光が煌びやかに咲いて、彼を様々な色に染める。
パラパラパラと弾け散る音に重なって、いち君の唇が開いた。
「抱き締めても、いい?」
確認されて、俯く。
問いかける彼の表情が、あまりにも切なく、甘くて、思わず逃げてしまった。
逃げてしまった、けれど。
私の返事は1つだけ。
俯いたまま小さく頷くと、そっと小指から引寄せられるように、私の体がいち君の腕の中々に包まれた。
花火が上がって。
鼓動が強く打つ。
彼の手が、頬に添えられて。
視線が絡まれば、いち君の瞳が揺れる。
「ずっと、君にこうして触れたかった」
花火の合間に囁くと、その端正な顔が近づいてくる。
逃げないでと願うような切なさを瞳に宿され、いち君となら、と瞼を下ろした刹那。
リンゴン、と豪華なドアチャイムの音が鳴り響いて、私たちは夢から覚めたようにはっとして離れた。
「ご、ごめん」
彼は言い残し、エントラスへ向かう。
その謝罪がどの意味なのか。
それはわからなかったが、別にハッキリしたことが1つ。
声には出さず、下の上で転がした想い。
やっぱり私は、いち君のことが好きだ。