いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
「でも兄さん結構奥手だから、心配。私がアドバイスしようか?」
「ははっ、余計なお世話だよ」
笑顔で怒ったいち君は、眉を下げて私を見た。
「ごめん、沙優。騒がしくて」
「いいよ。私も会えて嬉しいし」
正直、微妙な心境なのだ。
二人が来てくれて安堵している自分と、彼との関係をハッキリさせるべきなのではと思う自分がいる。
彼は今、普通に私と接しているけど、瞼を閉じた私をどう思ったのか。
気になるけれど、聞く勇気もなくて。
それならば、この賑やかさに今は誤魔化してしまってもいいかなと考え至る。
「それなら、少し話してて。すぐ返すのもわるいしいいかな?」
そして、いち君の提案から、彼も今は焦らないことにしたのがわかって私は頷いた。
「もちろん」
「ありがとう」
一瞬だけ、彼の瞳が迷うように揺れたけど、微妙な空気を作ってしまわないように笑顔を美波ちゃんと大地君に向ける。
「いいの?」と遠慮がちに尋ねる大地君の横で「ありがとうさーちゃん!」とはしゃぐ美波ちゃん。
「ねえ、兄さん! ラウンジにあった焼き菓子が食べたいんだけど、あれってフリー?」
「ああ、持ってくるよ。美波は沙優とゆっくりしてて」
「兄さん、僕も行くよ」
ついて行こうとした大地君を、いち君は優しく微笑んで制止する。
「大地も花火見物してていいよ」
そうして、いち君はラウンジへお菓子を取りに行った。
美波ちゃんがとりあえず座って話そうと言って、私たちは弾力のある夜空のような紺色のソファーに腰を下ろす。