いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
なんて言葉をかければいいのかわからず、空気を震わす花火に視線をやる。
すると、大地君のお説教から逃げるように美波ちゃんが私を呼んだ。
「そんな話よりさ、兄さんと結婚してくれるの?」
「え?」
「兄さんね、さーちゃんと結婚する為に頑張ったんだよ。転校してしばらくはずっと苦しそうな顔してたし、許婚の話がなくなった時は」
「こら! 美波!」
突如、部屋に叱咤の声が響く。
私たちが一斉に見た先には、その手に焼き菓子の入った袋が下げたいち君が厳しい顔で立っていた。
「わ、やばい」
「余計なことは勝手に話さないように」
咎められ、美波ちゃんは素直にごめんなさいと謝る。
そして、どうやら逃げることを選んだようで、美波ちゃんはソファーから腰を上げると大地君の手を引っ張って立たせた。
「兄さん、お菓子ありがとう! 別の場所で食べるからごゆっくり〜」
「わ、美波、そんな強く引っ張らないでよ。兄さん、ごめんなさい! 沙優お姉さんもまた!」
慌ただしく部屋から出て行く二人を手を振って見送って、私は深いため息を吐くいち君に視線をやる。
すると彼は苦笑し、そっと瞳を伏せた。
「ごめん、色々と。本当に」
「ううん。会えて嬉しかったし」
許嫁とか、結婚する為に何を頑張ったのかとか、気になることはあるけど、それもちゃんといち君から聞くのを待つよと伝えると、彼は「ありがとう」と弱々しく瞳を細める。
「気を取り直して花火、見ようか」
いち君の声に私は明るい笑みを作って頷いた。
「そうだね。飲み物、何かお代わり持ってくるよ」
それから、私たちは甘い雰囲気に戻るわけでもなく。
彼の父親の話に触れるでもなく。
ただただ、花火が次々と夜空を鮮やかに染めるのを眺めていた。