いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
いち君は私の疑問に「そうだね」と肯定した。
「沙優の言う通り、線引きみたいなのをしてるんだ。社会人に成り立ての頃、同期の一人に親しくされてると勘違いさせてしまったことがあって、それ以来ね」
苦笑いし、長い足を組む彼に同情してしまう。
詳しくはわからないけれど、やはり御曹司ならではの出来事だったなら社長の息子も大変だな、と。
やがて頼んだお酒とおつまみがテーブルに並べば、いち君は「それで、父の件だけど」と、本題を切り出した。
「もし嫌な気持ちにさせていたらごめん。いつかは話しておくべきではって思ってたんだ。でも、君は女性だから嫌悪するかもしれないと思って。それに、結婚に不利になりそうなら話すべきじゃないかなって、考えてた。卑怯でごめん」
確かに、プロポーズしてくれている人の父親が女性関係に緩いのは悩むところかもしれない。
恋愛に対して潔癖な思考の人なら「許せない、そんな人がいる家には嫁げない」と距離を取ることもあるだろう。
でも、私は潔癖ではないし、もし結婚するとしても彼の父親と結婚するわけではない。
もちろん関わりは深くなるだろうから無視できる問題ではないかもしれないけど、自分に被害がなければ困ったねという程度だ。
これもまあ、実際結婚してみたら考えが変わるかもしれないけど、今のところはどちらかといえば、彼ら兄弟が父親を苦手とする理由に納得がいったという思いが強いのが本音。