いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
「母がまだ元気だった頃、俺が母に父さんを好きじゃないと零したことがあったんだ。そうしたら、言われたんだ」
いち君が手にしていたグラスをテーブルに置いて、悲しげに視線を落とす。
『そうね。お父さんを理解できる人は少ない。でもね、はじめ。仕事と真面目に向き合い、家族には不自由なく生活をさせてくれている。それは感謝すべきところよ』
だから、悪いところばかり見るのではなく、良いところにも目を向けてあげて。
心優しい彼の母親は、そう言って微笑んだのだそう。
「でも結局、母は父を恨み、でも嫌いになれず病に倒れ亡くなった。母の葬式でも、父は涙ひとつ流さなかった。俺は、やっぱり父が苦手だし好きにはなれない。でも、逃げたくはないんだ」
最後、言葉に力を込めるようにして視線を上げたいち君。
彼は真っ直ぐな瞳を私に向ける。
「確かに父の仕事に対する姿勢は学ぶべきところがたくさんある。だから、決めたんだよ。父を超えるって」
そうすれば、何も言われないし、言わせない。
父は好きなようにすればいいけど、会社の為にならないことはやめてくれと言える。
いち君はそう話すと、グラスに残ったお酒を一気に飲み干した。