いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
「沙優、待って。少しいいかな」
あれから、私たちは食事を済ませて明日も仕事だからと早めに店を出た。
立派なリムジンで送ってもらい、離れることを少し寂しく感じながらお礼を述べて。
おやすみなさいと車を降りた私に声がかかって足を止める。
「どうしたの?」
ショルダーバッグのベルトに手を添えて首を傾げると、車から降りてきたいち君が、私を見て、またすぐに反らした。
躊躇うように眼差しを彷徨わせ、再び私を捉える。
街灯に照らされた柔らかい髪が、緩やかに吹いた夏風に靡いたと同時。
「もし、あれが俺の勘違いじゃなく、沙優が俺を受け入れてくれるつもりだったなら」
そこまで声にして、いち君は言葉を探すように黙った。
あれ、とは。
勘違いとは。
受け入れる……と、順番に考えて、答えに至る。
彼が言っているのは、昨夜のことだと。
彼の口づけを、受けようと瞼を閉じた時の話だ。
理解した途端、ボッと顔が熱くなる。
今が夜で、そして明かりの少ない外で良かったと思いながら、熱い頰を両手で包めば、途切れていた彼の言葉が続きを紡ぐ。