いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
午後九時。
欠伸を嚙み殺し、電車に揺られて数十分。
自宅に帰宅してローヒールのパンプスを脱いだ私は、冷蔵庫から麦茶の入ったガラス瓶を取り出してグラスに注いだ。
冷えた麦茶で喉を潤して、夕飯がまだなことを思い出した私の視界に入ってきたのは、日曜日の告白後に受け取った桃色のアマリリス。
ストローのような茎の先には花火を連想させるような大きな花が横向きに咲いている。
枯らしてしまう前にドライフラワーにしようと、夕飯をつまむのは後にして準備を始めた。
その直後、スマホがいち君からの着信を知らせて私は指をスライドさせる。
『沙優、急にごめん』
聞こえてきた彼の声には疲れが滲んでいた。
「ううん。お疲れ様」
労わるように伝えると、機械の向こうでいち君が肩の力を抜くように息を吐き出す。
『うん、沙優もお疲れ様。もう、家にいるかな?』
「今さっき帰ってきたところだよ」
『あの、いきなりで悪いんだけど、少し会いたいんだ。十分でもいいから寄ってもいいかな?』
遠慮がちに。
けれど、どこか固さのある声でお願いされ、何かあったのでは予想した。
だから私は小さく頷く。
「大丈夫だよ。待ってるね」
気をつけて来てねと伝えると、余程急いでいるのかいち君はいつもより余裕なさげに通話を切った。