いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
「そっか。私にできることはある?」
だから私は彼の気晴らしに徹すればいい。
いち君もきっと、ストレスから逃れる為に私に会いに来たのだから。
部屋に上がるように手を引くと、彼の指が私の指にそっと絡まる。
「あるよ」
「なに?」
「早く、結婚してくれること」
指先に力をこめて目尻を下げたいち君。
結婚は置いておいてと言っていたのだから、これは冗談混じりなのだと思い、私は照れながらも「もう、またそれ?」と彼から視線を外した。
「……ははっ、ごめん」
声が弱々しい気がして再び彼を見れば「ん?」と穏やかな笑みを携えていて、気のせいだったのかなと首を横に振る。
「車はリムジン?」
「いや、自分ので来たよ。家に父が押しかけてきて勝手なこと言い始めたから、追い出してすぐ沙優に連絡したんだ」
小さく溜め息を零したいち君に、私は「お疲れ様」と労いながら冷蔵庫を開けた。
「いち君、夕飯は?」
「まだ食べてないよ」
「おつまみみたいなのしかないけど、食べる?」
尋ねると、彼は「いいの?」と瞬きをひとつして私を見る。
「実は私もこれからだったの。付き合ってくれる? あ、でも帰り眠くなっちゃうかな?」
「大丈夫。沙優の手料理を食べたらテンション上がって眠くはならないよ」
相変わらず上手いことを口にしたいち君に、私は呆れて笑った。
本当は少し嬉しいのだけど、素直になれない。
でも、いち君はそれさえもお見通しとばかりに、ニコニコしていた。