いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
強く早く脈打つ鼓動。
顔も間違いなく真っ赤になってるはずだけど、今はそれにかまってられないほど慌てていた。
そんな私を、テーブルと椅子に手をつき覗き込むようにしながら彼は唇を開く。
「それはもちろん沙優のくちび──」
「ああ、ほら! 時間! 」
言わせないようにわざと大きな声で遮る私に、いち君は悲しそうに眉をひそめた。
「くれないつもりなんだ?」
こ、これは、ずるいやつだ。
ダンボールに入れて捨てられた子犬の如き表情。
雨の中震える子犬を置き去りにできるほど冷徹になれない私は、白旗を上げるしかない。
「い、いつか、は……」
どうにかそれだけ答える。
でも、今日のいち君は満足いかないのかさらに甘えるように首を傾けてる。
「今は?」
しかし、ここは譲れず私は「また今度!」と、ぐいっと彼を押し退けた。
そうすれば肩を揺らして笑ういち君。
「仕方ないな。また今度にするよ」
肩をすくめて言いながら、玄関に向かうのを見て私は緊張していた体の力を抜いた。
いち君と付き合ってから、まだ数日。
けれど、振り回される数は確実に増えている。
劣勢から抜け出すべく今のように対抗してみてもいち君には効かず、私の黒星の数は増えていくばかり。
きっと、土曜日のデートもドキドキさせられるのだろうと思うと、戸惑いの溜め息が零れたのだった。