いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
礼儀正しく振る舞い、微笑みながら何事も有利に進める。
中学の時は、先生たちもいち君の話にはよく耳を傾けていたのを思い出す。
「この手紙も花も、罠だったり」
なんて、人聞きの悪い言い方をしてから「あ」と声を上げた。
花はさておき、手紙自体は罠でもなんでもない。
私は、小学生の頃から時々、いち君から手紙をもらっていたのだ。
「確か……実家から持ってきてるはず」
呟いて、私はクローゼットの扉を引くと、下段の奥の方にしまってある30センチほどのダンボールボックスを取り出した。
滅多に開けることのないこの箱には、子供の頃から大切にしているものが入っている。
久方振りに蓋を持ち上げれば、中には様々なものが所狭しと並べられていて、私は端の方で束になっている手紙を手にした。
これは、いち君と仲良くなって少しした頃から、彼にもらうようになった手紙たちだ。
バレンタインデーにあげたチョコのお返しに、キャンディーと一緒に渡されたメッセージカード。
いち君の『ありがとう』という言葉がいつでも見返せるそれが、当時9歳だった私にはとても素敵なものに見えて。
『いち君からのお手紙、すごく嬉しかった』
いち君に伝えたら、彼ははにかんで言った。
『じゃあ、沙優ちゃんにたくさん手紙を送るね』
──それから、いち君は私に手紙をくれるようになった。