いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
「君は、昔もそんな真っ直ぐな目ではじめの手を引いていたね。そして、あの日私に交渉してきたはじめの目も、とても真っ直ぐだった」
そう零し、社長は封筒を鞄にしまう。
「では、少しはじめと話し合ってみようか。だが、あまりはじめを信用しすぎないように」
「え?」
「許可が出た途端、節操なく君に逢いに行ったくらいだ。私の血を継いでる証拠だろ」
嫌味を口にし笑う社長。
でも、私は頭を振った。
「私は彼を信じます」
そうすれば、東條社長は目を細めて溜め息を吐く。
「君は、彼女に似ていて見ていると逃げたくなるよ」
誰のことなのか。
測りかねていると、車のドアが空いて生温い空気が入り込む。
「失礼します」
頭を下げて、車を降りて。
私は去っていくリムジンを見送りながら長く息を吐き出した。
そして、このことはいち君には言わないでおこうと心に決める。
言えばきっと、彼は父親をひどく責めるだろうから。
いち君の負担を軽くする為に私ができることはこれくらいしかないと考えた刹那、脳裏に彼の母親の姿が浮かぶ。
『よろしくね』
頼まれて、頷いたのに。
これくらいしかできない私は、役立たずだ。