いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
ペットボトルの蓋を開けると、いち君が『疲れてるのにごめん』と謝る。
けれど、声を聞けるのは嬉しいからと伝えれば、彼は『俺もだよ』と優しい声を返した。
『ところで今週の土曜だけど、良かったらうちに来ない?』
「いち君の家?」
声だけで首を傾げると、いち君が短い声で頷く。
『招待したことないから、何かおもてなしでもさせてもらおうかなって』
言われてみれば、確かにいち君のお家にはお邪魔したことがなかった。
でも、おもてなしなんてしなくていい。
むしろ私が何か手土産をと考えたところで、思いつく。
「それならまたタルトタタンを持ってお邪魔しようかな」
『いいの?』
「いち君さえ良ければ」
それに、美波ちゃんたちにもまた作ってくれって言われたのだ。
「美波ちゃんと大地君も呼ぶ?」
彼らがどこに住んでいるのかは知らないけれど、もし来れそうなら、と思ったのだけど。
『それは却下。俺は沙優と二人で過ごしたいんだ』
電話越しのいち君の声が固くいじけたものになる。
『沙優は、美波たちがいた方がいい?』
いや、会えたら嬉しいけど、いた方がいいかと聞かれれば。
「そ、れは、ねえ?」
好きな人と二人で過ごす時間を大切にしたいに決まってる。
でも、口にするのは少し恥ずかしくて曖昧に答えると、いち君は気に入らないのかからかっているのか。
『はっきり言ってくれないとわからないな』
冷たく、けれど期待をこめて促した。
「い、いち君と二人が、いいです」
答えた瞬間、羞恥にカッと体が熱くなる。
私はやっぱり彼には敵わないなと眉を下げながら、満足げに『合格』と放つ彼の声を聞いていた。