いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
──印刷会社に出向いた甲斐があった。
いち君を始め、吉原さんたちからも色彩に満足してもらえ、私は胸をなでおろしウェイティングスペースの長椅子に腰掛ける。
実は、打ち合わせが終わった直後、いち君に声をかけられたのだ。
『真山さん、少し相談があるので二階で待っててもらえますか?』
色校正に問題はなかったし、どんな相談だろうと考える。
だけど、どうしても吉原さんが『はじめさん』と口にしたのが気になって、私は短く溜め息を吐いた。
打ち合わせ中、やはり彼女は『東條さん』と呼んでいて、いち君も『吉原さん』と彼女を呼んでいた。
そして、特別親しい雰囲気が見られたわけでもない。
二人はごく普通のスタッフ同士といった様子で会話も敬語。
では、どんな可能性があるかと考え、もしかしたら吉原さんはいち君を慕っているのではないかと思い至る。
それで、仕事以外では呼び方を変えたりしてアピールを頑張ってる、とか。
ダメだ。
こうして一人で予想してみたって真相はわからない。
やっぱり、折を見てそれとなくいち君に尋ねてみようと手元に落としていた視線を瞬きと共に上げたちょうどその時。
廊下の奥、エレベーターホールからいち君がこちらに向かってやってくるのが見えた。